本当に使えるデザインスキルを手に入れよう。

現れるデザイン…消えるデザイン

 

今回のタイトルを見て「おかしなタイトル名だな」と思われた方も多いでしょう。

しかし「デザイン」を考える時に、この「現れる・消える」という2つの要素は、それぞれとても大切なものなんで、そういった二つの相反する面からデザインを考える事も、デザインを深く知る上でとても大切な事です。

是非、最後までお付き合いください。

 

相反するデザインの特性

「現れる→前へ出る、目立つ」
「消える→後ろへ引っ込む、目立たない」

真逆の意味の特性ですが、
どちらもデザインにとって非常に大切な要素です。どういうことでしょう?

「現れるデザイン」「消えるデザイン」とはそれぞれ、どういったデザインの事か、まずはそこから、ご説明をします

 

1. 現れるデザイン

どうやって目立つ?前に出るデザイン

どう目立つのか?という部分は、商業デザインの世界では普通に重要な事でしょう。

例えばパッケージデザインの世界で言えば、

自分が作ったデザインが、売り場で他の商品よりも目立ちお客さんの目に留まって購入されるのは、至極、普通な事で当然な流れですし、デザイナーはその状況を狙ってデザインをすると言っても過言ではありません。

これはパッケージだけではなく、プロダクツでもグラフィックでも同義です。

人が商品を選ぶ大切な要素として僕らデザイナーは、「いかにしてデザインで、他より目立つのか?」という事について逃げる事なく、むしろ真摯に考えていかなければなりません。

目立つ為のデザイン…このデザインの大切な要素を「現れるデザイン」とここでは言わせて貰います。

 

2. 消えるデザイン

目立たないデザインの「カタチ」

しかし、もうひとつの要素、「消える→後ろへ引っ込む、目立たない」も、デザインにとってとても大切な要素です…

そう言われると…少し困惑される方もいるかもしれません。

何故なら、消えるデザイン…に代表される、そのデザインを形容する言葉達はそれぞれ、さっき言った「目立つ」と真逆な言葉ばかりだからです。

目立たない・引っ込む?まして…消える??

しかしここでひとつ間違ってはいけないのは「商品や…存在そのもの(ノートのデザインならノートという存在自体)が消えるのではない」という事で、消えるのは「デザインの意匠(装飾)」そのものです。

妙な言い方ですが、デザイン(意匠)というものを打ち消すことによって、“商品の本質そのもの”が表に現れて来るそれが、デザインの本来の役割です。これはよくお伝えしている…デザインする時に「自分らしさ」など出そうとするな…!というデザイナーの心得と…本質は同じです。

「いかにもデザインをしました」という部分を消し去る事で、商品自体を直接、ユーザーに繋げたい、そういう意味で「デザインを消したい」というのです。

少し話が、抽象的すぎるかもしれません。具体例を出して、ご説明しますね。

ノートが大事かブランド名が大事か

例えばあなたが「ノートが欲しいな」と思い、売り場へ出かけた場面を想像してください。

あなたはとにかく書き記したい事があるだけです。書きたい事の中身が大切で、ノート自体は(良い意味で)主張して欲しいとも思ってません。

しかし、売り場には、「Campus」と言う大きな文字が、どうだと言わんばかりに目に入って来ます。
※一番わかりやすいノートのトップブランドを例に出してます、コクヨさんすいません。

「本当はノートとして存在し、機能してくれているだけで十分なんだけどノートのブランド名が目立ってしまい、貴方がノート片手に歩く場合、そのブランドを宣伝して歩いている感じにさえ見えてしまいそうです。

そう、まあ「違和感」のレベルで大した事ないかもしれませんが、本来のノートをノートとして気持ち良く使いたいユーザーの気持ちから離れたノートになってしまってる事は確かです。

例えば…スタンフォード大学の学生が、スタンフォード〇〇…と明記されたノートを持ってそこら辺歩くのはまだわかる気はします。しかしノートのブランド名は一般ユーザーからすればあまり目立っても仕方ないモノでしょう。つまりこれはデザインが過剰であり、目立ち過ぎている…前に出過ぎてしまってると言う例です。

 

ノートそのものをデザイン(の装飾)が邪魔しているようなモノで、商品売り場やら街中のポスターで自身をアピールする為に有効だった「現れるデザイン」の特性は、
ここでは全くの逆効果になっています。

少し横道に逸れます…というか、少しコクヨさんに言い訳です。
実は…この記事の元原稿を最初に書かせてもらったのは、かれこれ10年以上前で…Campusノートも殆どベーシックラインのみでした。

その頃、売り場にあるちゃんとしたノートブランドは、Campusだけ…という時期もあったと思います。なので…Campusブランドが当然の如く目立ったのでここで例に挙げさせてもらってますが、コクヨ様を揶揄している記事ではないので…その旨ここに記しておきます。

また、最近のCampusノートを見てみますと、さまざまなキャラとかコラボしたり柄の中にブランド名を同化させて素敵な感じに仕上げて来ているので、
結構愛用させて貰ってます…。

以上、言い訳でした。

参考までにCampusノートの基本ラインのヒストリーページです。
https://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/campus/history.html

3. 印(デザイン)を無くす商品→無印商品

装飾(デザイン)を消すブランドの出現

すみません、
自ら話の腰を折ってしまい…ここで話を戻します。

そんな訳で、ノートと言えばCampusノート…という感じで20年くらい前までは、いわゆるCampus一強状態が続いてましたが…

そんな「デザイン(装飾・ブランド)を消したい」という欲求を、そのままコンセプトにして、1980年に無印良品は生まれたと言っても過言ではありません。

売り場をざっと見ても殆どのデザインで無駄な装飾がない商品ばかりですよね。(印)を消す、無いので「無印」なんですね。もちろん、色々なマーケティングから、もっと複雑な狙い等あったんでしょうけど、本質的な所で、ブランド(装飾)を消して…商品自体を表に出す…と言う狙いはあったと思います。

「自分が欲しいモノはノートならノートそのもの…で、メーカーさんが勝手に名付けたブランド名は外して貰いたいな…」そういった使い手の無意識を鷲掴みにしたから、あれだけの大ヒットとなったのではないでしょうか。

「無印良品」は(皮肉な事に)「無印と主張することで圧倒的な存在感を誇る唯一無二のブランド」となったのです。

しかしこれは
「どうやって目立つか?」だけを追いかけて来たデザイナーからすれば、まさに晴天の霹靂で受け入れがたいものかもしれません。

無印良品だけでない…デザインを「消す」デザイン

「無印良品」というブランド名は「デザインを消し去る!」というコンセプトを打ち出すことで、どんなデザイナーズブランドも叶わないような、非常に強大なブランドとなったわけです。このデザインを消す…という事は、デザイナーが自分のエゴを出来るだけ無くそうとしてデザインを作っている姿勢と…同義で根っこでは繋がっていると思います。

では、デザインを消すって、どういう事でしょう。無印というブランド作らないと…無理な話でしょうか?そんな事はないですね。本当に必要なモノ以外の過剰な部分を削っていくのはデザインの基本的で非常に大切なポイントです。

デザインを消す、という事をご説明するのに最適だったので、今回、無印良品を例としてあげさせて頂きましたが、他のデザインにおいてもまさに、デザインを消すことで、その商品の本質を表現すること、に成功しているものはあります。

そして、そういうデザインを実際に作られているデザイナーの方もいます。

4. 誰もが知っている…佐藤卓さんのデザイン

普遍的でシンプルなデザインの数々

佐藤卓さん…という方などは、まさに日本を代表するデザイナーの一人ですが、今回の「デザインを消す」というテーマに、ふさわしい方かもしれません。

佐藤さんのデザインはまさに意匠という意味でのデザインという邪魔な要素を消して、商品らしさを表現して人と商品を直接繋げる、そんな意図で作られているものが多いように思います。

これは、全く勝手な個人的な見方(感想)かもしれませんが、少なくとも、佐藤さん自体…自分(エゴ)が出ないように注意してデザインされてるように見えます。何かのインタビューで、佐藤さん自身こんな風に仰ってました。

自分にとってのデザインは「他力」なのではないかと、考えています。

デビュー作とも言える…ピュアモルト(サントリー)のパッケージデザインなどは、モルトウイスキー以外のウイスキーと混ぜ合わせていない、100%モルトウイスキーという特性をデザインでも表現すべく…無駄を一切省いたデザインになっています。

ここに自分の色…など必要ないし、最新の注意でそれらを排除した結果のデザインでしょう。

他にも…下記のような有名商品のデザインを、数多く作られています。

ロッテのチューインガム、ミントシリーズや
キシリトールのシリーズ…
サントリーのピュアモルツ
明治 おいしい牛乳
カルピス…
等々のパッケージデザイン、

また文房具というカテゴリでは、あのほぼ日手帳のデザイン全般に関わっていて、毎年毎年の細かいリニューアルであったり、一部のカバーデザインや例えば5年手帳とか新ラインが、発表される毎に佐藤さんか、あるいは事務所のデザイナーのインタビューがほぼ日で載ったりします。(興味ある方は探してみてください、すごく興味深いお話満載です)

TSDO Inc.(佐藤卓さんのデザイン会社 HP)
https://www.tsdo.jp/

佐藤卓さんというお名前は知らなかった方でも、上記のデザインの中からどれか一つは、ご覧になった事はあるかと思います。日本を代表するデザイナーの一人です。

 

商品の本質を大切にするデザイン

佐藤さんのデザインは、一見すると…至極普通のデザインに見えます。特に奇抜な事など全くしていません。

それどころか、パッと見で…少し物足りなく感じる方もいるかと思うくらい、デザインしないようにデザインしている…と思える部分が確かにあるかと思います。しかしそういう「デザインの意匠」を必要以上に前面に目立たさないデザインが逆に「その商品らしさ」…と言うものを押さえたデザインのように見えませんか?

競合の商品群はもう少し、装飾が目立つ…気がするんですね。それらの商品を擁護する訳ではないんですが、ある意味、そうやって少し派手目にデザインする事も、わかる気もするんですね。

やはり、陳列棚で手に取って頂かないとならない訳で、そこは「現れるデザイン(目立つデザイン)」としてお客様の目を引かなければなりません。

佐藤さんのデザインは必要な要素だけに削ぎ落としていく、引き算のデザインとも言えるデザインであって、非常に思い切ったデザインだと思います。(「言うがやすし」で本当に大事な要素を見極めると言う意味で非常に難しいアプローチです)

そして面白い事に、最低限の、本当にその商品に必要な要素に、絞り切ってまとめている事で…逆に陳列棚の中で、目立って見えてくる気さえします。

これはつまり…先ほどの有名ブランドのノートと無印良品のノートの関係性に似ています。

つまり、佐藤さんのデザインは、無印迄、装飾を無い状態にはしていませんが、引き算のデザインをして最低限必要な要素だけを残すことで、(装飾という意味の)デザインを消して、商品そのもの、商品の本質を体現するデザインを、作っていると言えます。

 

まとめ

 

では、消えるデザイン(引き算のデザイン)だけで世の中のデザインが構成されているか?と言えば…そんなわけもなく、一般的な広告系のデザインのように、どうやっって目立つのか?だけ目指しているデザインも沢山あります。でも「長く続くデザイン、名品と言われるデザイン」は足し算と引き算のバランスが良く「現れるデザイン」と「消えるデザイン」どちらの要素についても、とことん考え抜き、必要なら「消えるデザイン」に舵を切ったデザインも多くある気もします

「現れるデザイン」と「消えるデザイン」この相反するふたつの要素は、コインの裏と表でありながらどちらもデザインの大事な役割を担うものだと思います。

前へ出る「現れるデザイン」は、ユーザーの目を引き付けるという意味で、デザインの大切な役割を果たします…

例えば信号や標識のように、何かを素早く伝えるためにはとにかくデザインが前に出る事で、ユーザーに知らせないとならない場面もあります。(単純に事故が増え、人が沢山傷つきますし)それも大事なデザインの一面であり、もう一方で、無駄な装飾を廃する事で…逆に商品自体の魅力を伝えようとする「消えるデザイン」は、成功すればその商品の本質まで伝えられる素晴らしいデザインとなる可能性があります。

どちらも相反するようでいて、デザインの大切な側面を表しています。

今回は、「消えるデザイン、現れるデザイン」という少し不思議なタイトルでしたが、相反する二つの要素を持っている…というデザインの奥深さが伝われば大変嬉しく思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

 

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